●ROOM No.4(2007年9月)
「嘘をついてもいいじゃないか・2」 「一切れのパン」 F・ムンテヤーヌ著/直野 敦訳
 見事な嘘で思い出した名作がもうひとつありました。この本は確か絶版になっていると思いますが、私が中学生の時の国語の教科書に載っていたのを読み、いまだに覚えているくらい感動した物語です。
 題名は「一切れのパン」。このタイトルを聞いて「ああ」と思い出す人は40〜50代の人だと思います。今回はこの物語の主題を貫き通しているとても心温まる「嘘」について語ります。

             *   *   *

 あらすじはこうです。第二次大戦中、ルーマニア人の「わたし」は敵国ドイツ軍に捕縛され、同じ境遇の仲間とともに拉致されました。列車での移動途中、何人かが脱走を企てます。「わたし」もその中の1人。列車から離れようとするそのとき、「ラビ」という名のユダヤ人が「わたし」にハンカチに包まれたパンを手渡します。「このパンは、すぐに食べずできるだけ長く持っているようにしなさい。苦しくてもパンを一切れ持っていると思うと、がまん強くなるものです。そして、そのパンはハンカチに包んだまま持っていること。そのほうが食べてしまおうという誘惑にかられなくてすむから。わたしも今まで、そうやってずっと持ってきたのです」と。

 その後「わたし」は何百キロも離れた自分の家まで、地獄のような逃亡生活を続けます。その何日間もの絶食状態の逃亡生活は飢えとの戦いでもあったのです。「殺されてもいいから投降して食べ物を恵んでもらおう」という思いが何度も頭をよぎり、実際に包みを解こうとして、ハンカチの結び目に手をかけたこともあります。それでも「もう少しだけ我慢しよう…。そしてこのパンを食べてしまった後、それでも空腹に我慢が出来なくなったらあきらめよう」そう思い続けて逃亡生活は続きます。

 ついに「わたし」は国境を越え、家族が待つ我が家までたどり着きました。長椅子に横になっても眠れもしません。妻の料理の匂いで「わたし」は「ラビ」からもらったパンを思い出し、ハンカチの包みを引っ張り出し、微笑しながら包みを解きました。
「これが僕を救ったんだ…」
「何がその中に入ってるの?」
「パン一切れさ」
 その時、ハンカチから床に落ちたものは「一片の木切れ」だったのです。

             *   *   *

 「わたし」の命を救い続けてきた「一切れのパン」は実は「一片の木切れ」だったという、最後のどんでん返しは見事です。この(ある意味凄みのきいた)素敵な嘘が「わたし」を救ったことは言うまでもありませんが、前回の「ライフ・イズ・ビューティフル」と共通のテーマは「命を守る」です。ということは、どうやら前回+今回に限っては、人の命を守るためなら「嘘をついてもいいじゃないか」というところに落ち着きそうです。

 「嘘」と言うとイメージが悪いですが、嘘にもいろいろな種類があるわけで、「嘘」=「悪いこと」とは一概に言えないのです。みなさん、考えてみてください。戯れにこの世の中で「絶対に嘘がつけなくなったら」と想像してみたら?実にコワいですね。

 さて、次回は「みぞけんまんの最後の嘘」をお届けします。これは本当(笑)。

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みぞけんまん
 みなさん、こんにちは! みぞけんまんです。
 このコーナーは、多くの対象の方(子供に関係する方全て)に気軽に読んでいただこうと思いまして、あれこれと考えた結果、特に親しみやすい「映画」や「本」などを切り口にしながら、あくまでアメリカンに、シュガー&ミルクたっぷり?にお伝えし、「全ての道は私立園に通ず」を実証していこうとするものです。
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