●ROOM No.3(2007年8月)
「嘘をついてもいいじゃないか」
 「嘘をついてはいけません」。私立園の先生や親が必ず口にするこの言葉。しつけにおける基本中の基本ともいえることでしょう。しかし、他人をたばかったり、傷つけたりする類の嘘はもちろんいけませんが、時と場合によってはつかなくてはならない、あるいはつくしかない嘘も存在します。
 今回の学びの部屋では、いつか子供たちに教えたい!そんな「嘘」をいくつか語らせていただきます。

             *   *   *

 例えば、6月号で紹介した「ライフ・イズ・ビューティフル」という映画は公開当時「世界一暖かい嘘」と評されました。
 この映画では、物語の後半に、主人公のジョズエ(息子)とグイド(父親)がユダヤ人の捕虜収容所に収監されてしまい粗末な大部屋に入れられます。不安がる息子に父親は一世一代の嘘をつきます。「これはゲームなんだ」と。泣いたりおやつを欲しがったり、お母さんに会いたがったりしたら減点、それらを我慢して1000点取れば本物の戦車(息子がずっと前から一番欲しがっていたもの)がもらえると。息子が不安がることがないよう、強制労働で疲労しきった体で「お父さんは石蹴りをして来たんだ。減点されてしまったけど」や、「お前が今一等だよ。もうちょっと我慢すればゲームは終わる」と彼は息子におどけながら語りかけるのです。
 他の子供たちが次々とシャワー室に送られ、ガスで殺されていくシーンでは、ジョズエだけが死を免れます。父親は息子を守るため「ずっと部屋で隠れている事ができたら高得点がもらえる」と言っていたのです。戦車欲しさに父親の言葉に従い続ける息子。
 そんなある日、突然戦争は終わります。そして同時に収容所ではドイツ軍によるユダヤ人一掃の虐殺が始まりました。響く銃声。トラックに積まれ運ばれていく女たち。父親は息子を鉄箱に隠れさせ、「ジョズエは一等で今940点だ。ここに隠れておとなしくしていればあと60点もらえる。お父さんの帰りがすごく遅くなっても、辺りにだれもいなくなって静かになってから出るんだよ」と告げます。一緒に収監された妻ドーラ救出の為、女装をして混乱した収容所中心部に乗り込む父親。しかし…彼女を探しだせぬまま、ついにドイツ兵に見つかってしまうのでした…。鉄箱の中から父の様子を覗き込む息子。そんな息子に父親はウインクをして合図し、兵隊の様におおきな身ぶりでおどけて息子の前から去っていきます。自分を殺そうとして銃を突きつけているドイツ兵と、あたかもゲームの続きをしているように見せる為に…。
そして…父親がドイツ兵と一緒に入っていった物陰で短く銃声が響きます。ドイツ兵に射殺されてしまったのです。
 翌朝、混乱が去り、鉄箱から出た息子の前に戦勝国として乗り込んできたアメリカ軍の本物の戦車が…。(この時点で戦車をゲットしたつもりになった息子にとっては、父親の嘘は嘘ではなくなっていくわけですが)

 実は息子も見事な嘘をついて見せるシーンもあります。
 ある雨の降る日、息子がもう家に帰りたいと言って駄々をこねたとき、父親はいろいろと説明じみたセリフを吐きながらも、帰るそぶりを演じ始めます。「もう少しで一等賞だけど、仕方がないな、戦車も手に入るのに息子が帰りたいっていうなら、帰るか」。息子より先に外に出る父親。
 その時です。いろいろ思考した末に息子が「パパ。雨にぬれるとお熱がでるよ(だからまだおうちに帰らなくてもいい…)」。
 息子はあの時、本当に父親のいつわりを信じていたのでしょうか。それとも、困った父親を察知して、安心させたかったのでしょうか。後者だったとしたら、いや後者だったと思いたいのですが、実に見事な嘘だったといえるでしょう。

 考えてみれば幼稚園や保育園の先生も素敵な嘘をついています。さすがに皆さんの身近にこの映画のような日常はあるわけがないのですが、雷様がへそをとる話しからサンタのおじさんの話…まで。さまざまです。しかし、共通しているのは「あくまでも子供のため」ということ。決して大人の都合ではないのです。(グイドがついた嘘もそうです)というわけでそんな時に限って「嘘も方便」ですね。
 そういえば、ある保育園の午睡の時間に「ねえねえ、○○ちゃん。先生のこと、てっぽうで撃って」と頼んでいた先生がいました。「なんだろう?」と思ってみていると、○○ちゃんの指てっぽうで「ばーん!」と撃たれたその先生、「ううう・・・ばたん」と言ってそのまますやすやと自分が午睡…いや爆睡したのです。さすがに「おお!いくらなんでも!こんなのあり?」と思ってしまいました。しかし、こんな嘘はもちろんなし!ですね。


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みぞけんまん
 みなさん、こんにちは! みぞけんまんです。
 このコーナーは、多くの対象の方(子供に関係する方全て)に気軽に読んでいただこうと思いまして、あれこれと考えた結果、特に親しみやすい「映画」や「本」などを切り口にしながら、あくまでアメリカンに、シュガー&ミルクたっぷり?にお伝えし、「全ての道は私立園に通ず」を実証していこうとするものです。
 みなさん、どんどん遊びに来てください! このページを通して、仕事中だけでなくプライベートな時間にも「ラフに」、しかしながら「常に」、子供たちのこと、保護者のことが考えられるような感性を身につけられたら(学べたら)、どんなにすばらしいことでしょう。そんな学びの部屋へご招待します。
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